本人や家族、支える人の声
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#家族や介護者
認知症の家族との関わり方
認知症の父を介護しているSさん
Profile
就労しながら認知症の父を介護する50代女性。父が認知症になったことを機に、老々介護をする両親とともに暮らすことを決意。何でもできる頼れる父が認知症になり、切なくなることもあるが、時々見せる昔と変わらない姿に、いつまでも父らしく、互いに楽しく過ごす方法を日々模索しながら介護をしている。今後は父の趣味を生かしてDIYで庭造りをしたいという思いがある。
家族の認知症が発覚
家族の認知症に気づいたきっかけはなんですか?
私の父の場合は、探し物や同じ話題が増え、徐々に周囲のものへの興味・関心が減り、活気がなくなっていきました。本人も違和感を感じ、不安になっていた時期だったのだと思います。家族も、認知症と年相応の物忘れのどちらか分からず、受け入れられない気持ちもあり、なかなか動き出せませんでした。
どのような経緯で認知症だという診断にいたりましたか?
遠方に住む孫に勧められ、検査を受けることにしました。本人からは消極的な返答しか得られませんでしたが、本人に内緒でかかりつけ医に相談に行き、脳ドックに行くことを勧めました。声をかけ続けて1年ほど経過した頃、本人が自ら検査を希望し、認知症と診断を受けました。異変に気づいてから2年近く経過していました。
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認知症の家族を、どうサポートしていくか
日常生活で困ったことや工夫していることを教えてください
まずは一人での外出(徘徊)です。外出時はシニア向けスマートフォンを肩掛け紐に付けていってもらうようにしています。GPSで居場所を知ることができるので、ある程度自由に趣味の散歩や畑仕事を楽しむことができています。また簡単な操作で家族に電話をかけられるところも便利です。他にも“福山市認知症ひとり歩きSOSネットワーク事業”に登録したり、名前プレートを活用したりすることで一人での外出に備えています。
また自宅でトイレの場所が分からなくなることがあります。そこでトイレのドアに分かりやすい案内シールを貼ることで、トイレに間に合わず失敗することが減りました。電気の消し忘れがないように人感センサーの電球をトイレや廊下に取り付ける工夫もしています。
そして認知症の進行を予防する工夫も行っています。日めくりカレンダーに朝夕に服用する薬を貼り付け、日付や季節の感覚をもってもらえるようにしたり、大きなカレンダーを壁に貼り、予定や日記、気になったことをメモできるようにしたりしています。また普段からゴミ捨てや包丁研ぎなど本人の得意なことをしてもらい、「ありがとう!助かったよー!」と声を掛け、人の役に立つ喜びを感じてもらえるようにしています。
様々な工夫をしていますが、一番は、自宅を 「居心地が悪い場所」だと思ってしまうと一人歩きのきっかけになってしまうため、「安心できる場所」だと思ってもらえるようにすることを心がけています。
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そのほかに接し方で工夫していることはありますか?
少しの時間と気遣いで本人が穏やかに過ごせる方法を日々模索しています。下記は、実践してみて上手くいった対応です。一見時間や手間がかかるように感じるかもしれませんが、本人が怒ったり落ち込んだりするよりずっと良いです。対応から不信感を持たれると症状や関係性がより悪くなる可能性もあるため、本人の思いに寄り添った対応をすることが大切だと思います。
- 本人の考えを聞く
なぜそう思ったのか、きっかけを聞くことで、問題の解決に繋がることがある。 - 話題を本人の興味があることにそらす
1度考え込むと1つのことが頭から離れなくなるので、趣味や好きなものの話題に変える。 - 相談や話しは快く聞く
気軽に話せることで、知らぬ間に大ごとになっていたということがなくなる。また失敗や間違いを正そうせず、自分の行動を振り返って間違いに気付き、納得してもらうようにする。 - たまにはお出かけをする
居酒屋など普段行かないところに出かけることで懐かしい記憶が蘇り、今まで聞いたことのない昔の話が聞け、良い気分転換になった。
認知症の家族を介護する人に向けて
認知症の家族の介護で心掛けていることを教えてください
家族は頼りになる安心な存在だと分かってもらうことが大切だと思います。我が家では困った時はサポートし、ゆっくり説明をして理解してもらう時間をつくっています。少しの時間と気遣いで、トラブルを減らすことができました。
またできるだけ自由に過ごせる環境をつくっています。「あれもこれもダメ!一緒に!」だと息が詰まってしまいます。また先回りして本人ができることまでやると、病気の進行に繋がる可能性があるので、お互いが楽しく過ごせる環境づくりを心がけています。
そして、一番大切なことは認知症のことや本人のことについて知ろうとすることだと思います。父の行動や言動には、いつも理由がありました。認知症のことや本人のことを知ることで、困っていることがサクッと解決することもありました。趣味や楽しみ、これからやってみたいことなど、改めて話をしてみると新たな発見があるかもしれません。