本人や家族、支える人の声
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#本人
認知症になっても
自分らしく暮らすことができる
若年性認知症のKさん
Profile
61歳のときに若年性認知症と診断される。診断後も周囲の協力のもと会社に勤めている。認知症と向き合うため、普段から妻と二人で「認知症の人と家族の会」に参加するなど精力的に活動を行っている。今後は認知症の本人同士で話ができる場に参加したいという思いがある。
認知症と診断されて
ご自身が認知症かもしれないと思ったきっかけはなんですか?
自覚はなかったのですが、4年ほど前に、職場で指示されたことをよく忘れるようになっていました。メモをしても、メモしたこと自体を忘れてしまっていて、職場の同僚が異変を感じて、一度病院で診てもらった方が良いのではないか、と指摘してくれたことがきっかけでした。病院を受診する前に認知症について調べてみたのですが、どの本を見ても“この世の終わり”のような書かれ方をしていて、自分には当てはまらず認知症ではないだろうと思っていました。
認知症と診断されたときは、どういった気持ちでしたか?
1件目の病院の先生から言われたのは「認知症だろう」という言葉でした。まさか自分が認知症のはずがないという思いから、別の病院にも行きましたが、やはり“認知症だろう”という診断結果でした。自分が認知症であるということをとにかく受け入れることができず、「なぜ自分が?」「この先どうしたら良いのだろう?」という思いで、目の前が真っ暗になりました。
どのようにその気持ちを整理されたのですか?
妻に認知症かもしれないということを相談したところ、認知症の会に一度行ってみようと言われました。認知症の会に行くということは、認知症であることを認めることになるので、非常に辛い気持ちでした。しかし、認知症の会がきっかけで現在の主治医の先生と出会うことができました。その病院の先生や看護師さんが自分に寄り添って話を聞いてくれて、非常に明るく接してくれたことで、気持ちが楽になりました。そこでようやく、認知症であることを認めないといけないなと思いました。
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今の生活
仕事や趣味など今はどのような生活をしていますか?
まず仕事についてですが、認知症だと仕事を続けることはできないと思っていました。しかし、職場に相談したところ、仕事を続けても良いということを言ってもらい非常に嬉しかったです。仕事内容についても配置転換をしてもらい、今でもやりがいをもって働き続けることができています。
「認知症の人と家族の会」にも通い続けており、自身の体験や思いを発表する場を何度かいただいています。自分が話す経験談を、認知症の人や支援者の人に何かしらのヒントにしてもらい、同じ病気に悩む人が同志として繋がることで、少しでも明るい生活を送ることができればと願っています。発表することで私自身の自信にもつながっていますので、非常に貴重な経験をさせてもらっていると感じています。
現在は妻と二人で暮らしていますが、休日にはペットショップや本屋に行くなど、自分のやりたいことをしています。また、近所に住んでいる息子が孫を連れて遊びに来てくれるのが一番の楽しみになっています。周りの人に支えてもらうことで、認知症になる前と変わらない生活を送ることができています。
自分らしく生きるために、病とどう向き合うか
自分らしく生きるために、生活の中で心がけていることはなんですか?
規則正しく生活して、ストレスを溜め込み過ぎないことを心掛けています。伝えたいことがきちんと伝わらないことにイライラしてしまうこともあるのですが、認知症だから仕方がないと自分に言い聞かせるようにしています。
また、毎日仕事に関する日誌を書いています。その日あった出来事や反省点、助けてもらったことなどを毎晩思い出しながら書いていて、認知症が進まないきっかけになっているんじゃないかと思っています。
病院の先生からも人と会話することが大切だと言われているので、家族や職場の同僚などにも積極的に話しかけるようにしています。周りの人も話やすい環境を作ってくれているので、人にも恵まれて本当に幸せだなと感じています。
認知症の人や支援者へのメッセージ
認知症の人へのメッセージ
認知症の症状は十人十色ですが、最初に診断を受けた時には「なんで自分が」という思いになり、受け入れることや前向きになることは難しいことだと思います。私自身も普段の生活の中で落ち込むことやふさぎ込んでしまうこともありますが、自分から積極的に外に出ていき、人とコミュニケーションを取り、自分の好きなことをするように心掛けています。認知症だが“自分は何ら変わり無い自分である”ということに自信を持って、笑顔で過ごせるよう一緒に頑張りましょう。
支援者の方へのメッセージ
認知症の人は、自分の伝えたいことがきちんと伝わらないことでイライラしてしまうので、気持ちに寄り添ってもらい、会話がしやすい環境を作ってもらえることが一番嬉しいことです。私自身も、家族をはじめ、職場の同僚や病院の先生、認知症の会など多くの方々に支えられていることに感謝しています。認知症の当事者同士が気軽に話し合える居心地の良い場所や、どうやって支援者の方々と繋がることができるかを教えてくれるような仕組みがもっと充実すれば良いなと思っています。
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